日韓・男女共同参画のまちづくりフォーラム実施報告
「女性にやさしいまちづくりは、人にやさしいまちづくり」

フォーラムの様子の写真

平成22年7月17日 土曜日  クレオ大阪中央・セミナーホール
主催 大阪市、(財)大阪市女性協会 共催 大阪市地域女性団体協議会、ソウル市女性家族財団

「女性にやさしいまちづくりを進めることは、誰もが安心して安全に暮らすことができ、世界から人が集まる魅力的なまちにつながる」という趣旨のもと、160名を超える参加者の中、日韓それぞれのまちづくりについて事例報告と活発な意見交換がおこなわれました。

午前の部 基調対談 ソウル〜女性にやさしいまち〜 10時〜11時30分

発表者
ソ・ヨンジュさん  (ソウル市女性家族財団 政策開発室長)

先進10カ国に入るためには、まず女性が幸せな、住みたいような都市にするというのがソウル市のビジョンです。「女幸プロジェクト」は、2007年から4年間、90に及ぶ内容、総額7千億ウォンが投資されたプロジェクトです。

韓国の女性施策は大きく変化し、例えば法律などは世界に類を見ないほどの急激な変化がありましたが、女性が都市空間で生きていくには、とても不便であり不安な状況でした。女幸プロジェクトは、都市の中で女性が不安でなく、そして便利で安全で不快でないような都市をつくるために市政全般にその視点をいかしています。

プロジェクトの総括は担当部署が行いますが、60のプロジェクトの内容に関しては160カ所の部署で共に行っています。ソウル市の女性施策はすべての部署で共に悩むという点が、他の施策ともっとも差別化されるところです。

このプロジェクトは5つの領域(「便利なソウル」「安全なソウル」「子育てのソウル」「仕事があるソウル」「豊かなソウル」)に分けて、公共施設や公共交通、住居、都市の安全、女性の健康、子育て支援、女性の職場の確保などについて取り組んでいます。

  1. トイレ
    ソウルではトイレの便器の数は、女性は男性の70%しかありませんでした。そこで、男女の便器の数が同数となるようにし、女性は子どもを連れてトイレに行く機会が多いので、おむつの交換台、子ども用のイス、棚なども設置しました。また、トイレはどうしても隅に追いやられるため安全でないことが多く、非常ベルの設置、照明の設置、照度を上げるなど、安全を確保するようにしました。
  2. 駐車場
    子どもを連れて駐車する女性が多いので、駐車場の幅を広めて、出入り口の近くに便利に利用できるよう設置しました。また、女性にとって地下駐車場は危ないため、照明を変えて照度を上げました。防犯カメラや非常ベルも設置しました。
  3. エレベーター
    ソウルは大阪に比べてマンションの多い都市です。夕方にエレベーターに乗る時、知らない男性がいると実はちょっと不安を感じます。それで、エレベーターのドアの一部を透明にし、人がいるかどうか見えるようにしました。
  4. 保育施設
    韓国には100%国や地方自治体が支援する国公立保育施設があります。しかし、申し込んでも入れないこともあります。そこで民間の保育施設を国公立の水準に引き上げる施策を行っています。家庭で子どもを見ている人のために25区に一つずつ、子ども用プラザ・乳幼児プラザを運営しています。こういう施設には保育施設、子どもの情報を分かち合う場、体験学習場、おもちゃ、貸し出し教室などトータルな保育サービスが提供されています。
  5. 外国人女性の支援
    ソウルには3万7千名くらいの外国人がおられ、そのうち70%くらいが女性です。結婚生活や韓国文化になじめず困難を抱える場合があります。このため配偶者となる韓国人男性に対して、国際結婚についての事前レクチャーを行っています。こうした外国人女性は韓国語ができない方が多いので言語教育、出産教育、妊産婦の支援を行っています。また、外国から来られた女性たちのために、就業訓練を行っています。
  6. ひとり親家庭の支援
    ソウルでは離婚や死別によるひとり親家庭が増加しています。ソウルでは31万世帯がひとり親家庭で、そのうち70%がシングルマザーの家庭です。特に青少年が妊娠して子どもを生むと学校に行けなくなり、就業ができなくなる。そして貧困に陥るという悪循環が継続します。そこで、こうした女性たちのための代替教育を行っています。子どもの養育費を支援するなど、彼女たちが再び貧困に陥らないように企業など多様な組織と連携し、支援を行っています。
  7. 就業の場から断絶された女性たち
    ソウルの女性たちは、高校を卒業した82%が大学に進学しています。今年はじめて、男性は82.2%、女性は82.4%と男性を超えました。しかし、女性が経済活動をしているのは60%に過ぎません。韓国の女性たちは夫が働いたお金で生活するのもよいのですが、自ら働いてお金をもうけたいと思っています。ところが、就職するのは星をつかむようなむずかしさです。特に結婚によって退職した女性が再就職するのはとても難しいため、このような女性たちの職業訓練を行っています。
  8. 市民との協働
    女幸プロジェクトは行政マンだけのプロジェクトではなく、政策設計そして実行まですべての部分で女性が直接関与しています。「女幸同伴者」は、教授や女性団体、NGOなど非公務員で構成されています。ソウル市の施策を諮問し、新たな方向性を提示するという重要な役割を担っています。
    「女幸プロシューマー」(生産者と消費者を合成した言葉)は、主婦、会社員、女子大生、壮年層の一般女性200人によって構成されています。この方たちは、私たちにとってこういう施策が必要だと、施策を発掘してソウル市に提言しています。そして3つ目のグループが25の区にある「女幸フォーラム」です。女幸プロジェクトを行うための自治区内の会員たちのネットワークです。「女幸フォーラム」は、自分たちの地域を分析すると、それを改善するための方法を考えます。フォーラムの人たちが、アイディアをつくると担当の公務員と会い、何度も意思疎通をして、モニタリングを継続して行います。女性にやさしいまちは、すべての人にやさしいまちだと思います。韓国のことわざに「泣く子に乳をあげる」があります。私たちは子どもではないですが、継続してずっと要求しなければならないと思います。

今年の6月に、女幸プロジェクトが公共行政部門における革新的な優秀事例として「国連公共サービス賞」を受賞しました。私たちは女性の自我の開発に協力し、そして女性の仕事と家庭を両立させる取り組みを行いたいと思っています。未来における世界都市は男女が平等に参画し、平等に恩恵を得られる都市だと思います。

聞き手
細見 三英子さん  (ジャーナリスト、大阪市男女共同参画審議会会長)

お話の中でこれは採用したらよいなと思ったものが何点かあります。まず、トイレのあり方の問題ですね。

私は四国に行く時に休憩をしたい場所があります。なぜかというと、もちろん風景もよいのですが、女子トイレがすばらしい。一緒に出ようねと言っても大丈夫なのです。皆さんに会うごとに、橋を渡ったすぐの淡路島のトイレはすごいよと言っていました。○○のトイレはいいよと言うことは、その施設の付加価値を高めるのです。

そして保育所の充実の問題です。私たちは経費がかかるからと、民営化を推し進めています。民営化によって待機児童の数は確かに減りました。ですが、民間に預けた児童が公立と同じような質の保育を受けられるか、中身がどれほどすばらしいかということをこれから考えていかなければならない。民間の保育所を国公立の保育所のレベルにどう引き上げていく、そのために行政はどう補助するかが問題だと勉強になりました。

それから、家族や外国からの人たち、生活困難者に対する支援ですね。特に外国人の女性に対しては彼女たちの状況に合わせた独自の職業訓練を行っている。男性にどういう施策をするのか、これも本当に参考になりました。
最後に、女幸同伴者グループやプロシューマー、各区に女幸フォーラムがあって多くの方が参加しています。財政的な裏づけ、例えばボランティアであるのか、こういう大きな支援部隊をつくる財政的な基盤はどうなっていますか?

ソ・ヨンジュさん:
女幸同伴者と呼ばれる人たち、一緒にやっていく人たちは基本的にはボランティアです。市などに諮問したり施策を提案したりする場合は、少しですが諮問費、提案費など一部の費用を充当しています。ですが、金銭的な問題よりもむしろ参画することによって、政策が変わるなど、そういうことに対する誇りがその人たちを動かしているのだと思います。

細見 三英子さん:
ありがとうございました。

 

研究室

研究テーマ・報告

  • 平成26年度
    ・女性の活躍推進に対する男女就業者の意識調査
  • 平成25年度
    ・男女共同参画に関する市民意識調査
  • 平成23年度
    ・企業における「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」への取組み実態調査研究
    ・地域における男女共同参画の課題解決支援プログラムに関する調査研究
  • 平成22年度
    ・就労に関する市民意識・実態調査
    ・子育て中のパパ・ママにやさしいまちづくりを考える調査研究
    ・日韓・男女共同参画のまちづくりフォーラム報告
  • 平成21年度
    ・20〜30 代働く男性の男女共同参画に関する意識と実態
    ・韓国・ソウル市「女性が幸せな都市」プロジェクトとガイドライン(評価指標)報告
  • 平成20年度
    ・男女共同参画のまちづくり 〜女性の社会参画と「住む」「働く」「行く」のハードに関する都市の変化〜
    ・男女共同参画に関する市民意識調査・男女共同参画に関する市民意識調査